● 行けなかった和名倉山
秩父槍ヶ岳、矢岳と続いたKさんの埼玉県の山踏破だが、7月2日和名倉山が最後の山でKさん以下6名の会員で行ってこられた、私にも声をかけていただいたが、当日都合が悪く参加できなかった。
和名倉山はぜひ行ってみたい山なので、今年はお盆休みに行こうと思うとTさんに言うと、この時期に行くのは暑いから止めた方が良いと言われてしまった、でも他に良さそうな山も思い当たらず、ずっと樹林帯を歩く展望の無い山なので曇りでも良いし少しは暑さも和らぐだろう、標高が有るので和名倉山の山頂からCQを出せばかなり呼んでもらえるともくろんで出かける事にした。
● 登山口はすぐわかる
三峰方面に入るのは、雲取山に登った時以来なのでかなりご無沙汰だ、二瀬ダムを越えて登って行くと、秩父湖に架かる吊橋が見えて、登山口はすぐに解った、対岸の山が和名倉山に続く尾根のようだ、埼玉大学秩父山寮の脇から吊橋に下る、橋の脇には平成2年度 大洞橋木床版張替工事・・・秩父市と書いてある、張り替えられてから27年も経っているらしい、でもいざ橋を渡り始めるとほとんど揺れることも無くしっかりしている。
これから歩く尾根が見える | 注意書きが幾つか |
橋を渡り終えるとここにも注意書きがある、和名倉山方面は左の二瀬尾根登山道で右側は通行止めになっている、鉄の柱で支えられたコンクリートの道を行くと植林地の中に明瞭な踏み跡が上に続いている、この植林地は枝打ちがされて良く手入れされている、鹿の食害から守るようにネットもかけられている。
看板には山道は十分注意して事故防止に努め12月中旬 〜4月上旬は通行禁止とある |
杉林の中を道が続く |
● 鈴を忘れる
杉の枯れ葉の積もった中にフタリシズカが幾つか咲いている、三峰に向かう道路が近いので車の走る音がひっきりなしに聞こえて来るが、植林地とはいえ誰もいない森の中を一人歩くので、クマよけの鈴を持ってこなかったのを後悔した、急斜面を登るのですぐに汗が噴き出してくる。
フタリシズカ | ワイヤロープが枯れ葉の中に |
普段鈴を鳴らして歩くのはあまり好きではないので持ってくる事を思いつかなかったが、こんな深い森の中ではそうもいかない、急な斜面を登るので息が上がるのでわざと声を出しながら、誰もいない山の中をさながらスポーツ選手が掛け声を出すように、ハアハア声を出しながら登って行く、登山道にはイノシシの仕業か落ち葉を掻きまわしたような跡のがずっと続いている、小さなハエがまとわりついてきて、時折ブーンという音を立ててハチだかアブだか解らないが虫が飛んでくる。
ハンカチで汗をぬぐいながら登るが、すぐに乾いたところが無くなってしまう、濡れたハンカチをザックのバンドに掛けていたが、これを首に巻くと冷えて気持ちが良いことが解った。
索道に使ったのかワイヤロープが杉の枯れ葉の中に埋もれている。
杉の植林地は尾根に上がると西側が雑木の自然林になる、クヌギだろうか太い木がある、こんな木には樹液が出ているところにカブトムシがいたりするが、良く見ると小ぶりのクワガタが一匹樹液をなめている。
歩き始めて一時間以上経ったので休みたいところだが、相変わらず展望は無く、地面も湿っていて、休むのに丁度良さそうなところが無い、昨日は一日野良仕事で、下半身に怠さを感じる中努めてゆっくりと歩いてきた、水はハイドレーションが有るので少しずつ飲めるが、それでもそろそろ休みたい、急斜面だが左側に少し開けたところが有るので、休むことにする樹林越し三峰に登る道路に人家が見えている。
● ジオグラフィカで確認する
和名倉山のトラックデータをスマホに入れてきたので現在地を確認すると、標高1100m位でまだ反射板跡のだいぶ手前のようだ。
休憩後急な斜面を30分ほど登ると「反射板」の道標があり右に広場がある、その先にバス停のような東京大学「山火注意」の看板と木にバケツが掛かっている。
● 森林軌道跡
ここから平らな道が始まりずっと続いている、これが森林軌道跡らしい山奥にこんなところが有るのが不思議だ、歩き始めてからすでに2時間以上過ぎているが地図上ではまだ3分の1位しか来ていない、山頂までの目標を5時間くらいと思っていたがとても5時間ではたどり着けそうに無い。
平らな道が続く | 展望は無いが良い雰囲気 |
倒木や落石など有るが歩くのには問題ないので、ここで時間を稼ぐしかないのでひたすら先を目指す、途中崖崩れで狭くなった所や岩場などもあるがザイルが張って有って問題なく通れる。
斜面は苔に覆われている | 樹林が切れて崩落地がある |
やがて大きな崩落地に出るが、ふみ跡を辿って注意深く進む、その後2つほど小さな崩落地を越えてさらに軌道跡は続く、この辺りまで来ると、車の走る音が聞こえなくなり雲海で見えないが左の下の方に沢が有るらしく、沢音が聞こえて来る。
森林軌道跡は続く | 左側の斜面が落ち込んでいるが沢音が聞こえる |
進んでいくと森林軌道跡は広場になり、それまでにも沢山有ったが、おびただしい量のワイヤロープの残骸がある。
● 造林小屋跡
ワイヤロープの残骸 | 森の中に車輪 |
森の中には車輪やウインチの残骸などが有って、NETで調べたころここは東京大学演習林だったらしい。
木に飲まれた車輪 | ウインチの残骸 |
少し空腹を覚えたのでここで休みおにぎりを一ついただく、地面には古いベアリングやシャフトなどが落ちている。
ワイヤロープに錆びたベアリングの残骸 | 造林小屋跡 |
森林軌道が作られたのは明治後期から大正の頃か、そのころこの辺りで人が働いていたのだろうか、夏草の茂る道を進むと苔むした沢がある、右に進むと踏跡は斜面に向かうが無くなってしまう、沢の方を良く見ると底の抜けた錆びたバケツがあり沢を越えた先に道が有るようだ。
沢の先に道が続く | ソバナ? |
沢を渡って先に行くと、雑木の森の中急な斜面に登山道が続いている、地図を確認するとこの辺りでやっと半分ぐらいだ、ここまで3時間半ほど掛かっている、標高はまだ1400mあまり、山頂まではまだまだ先が長い、やがてスズタケのヤブが出てくるが、幸いな事にスズタケは完全に枯れていて登山道を登るのには全く問題ない、キノコはたくさん生えているが、如何にも毒がありそうな奇麗なのが生えている。
スズタケは完全に枯れてる | こんなキノコが |
東京大学の境界見出標が木に取り付けられていいる、ここは東京大学農学部の演習林になっているのか、登って行くとちょっとした広場があるので休憩することにする、時間はすでに10時50分に成ってしまった、でも標高は1800mを越えた。
● 広場で休憩
東京大学の「見出標」 | 広場で休憩する |
ここまで来ると虫も少なくなってきたし気温も下がっているようだ、道は狭い尾根になってきて針葉樹とシャクナゲも出てきた、ただガスが出てきた、道はピークの左を巻いているようだ、油断するとコースを外していることが何度かある、ちょっとした岩場を超える。
岩場を超える |
● 雨が降ってくる
歩いていくとポツポツと音が聞こえてきた、雨が降ってきたようだ、木の枝が茂っているので、濡れないが、歩いていくと、だんだん雨水が落ちて来る、ここまで来たのだから山頂を諦める気は全く起きなかった。
シャツは汗でびっしょりなので雨で濡れてもどうという事も無いような気がする、雨の降る中を山頂をめざして先を急ぐ、それでも先の方に樹林帯の切れた広場が見えたのでカッパを着ることにする。
とりあえず上だけカッパを着ていると、話声が聞こえる、登山者がいるようだ、山頂が近いのかと思ったらそうでもなさそうだ、登山者は若いと言っても40代位の男女二人で、山梨の方から登って来て和名倉山に登ってこれから二瀬に抜けると言う、山頂までどのくらいかかるか聞くと、あと一時間位で、この先の苔が奇麗だという。
山頂までの情報を教えていただいたので先を急ぐ、樹林帯の切れた場所は「北ノタル」というらしい、すぐに苔の森に入る、倒木や切り株が苔に覆われていて雨に濡れて余計に奇麗に見えるが森を見ている余裕も無く先に進む、雨が降っているので防水に成ってないデジカメが心配なのでカッパのポケットに仕舞う。
苔の森 | 二瀬分岐 |
苔の森を抜けると辺りは広い森になり、二瀬分岐の道標がある、ここから和名倉山の山頂の方に向かうと登山道は唐松の幼木の茂った中を通っていて歩いていくとズボンがずぶ濡れになり靴の中にも水が溜まってしまう、カッパを着るとき、上着だけでなく下も履いてスパッツも付ければ良いのだが、すでに濡れているとついつい履くのをためらってしまう。
山頂に向かって登って行くとここにもワイヤロープがある、小さい鹿が左から右に一瞬のうちに駆け下って行く、ちょっと解りにくい所が有ったが何とか二等三角点のある和名倉山山頂に着く事が出来た。
● やっと山頂に
和名倉山山頂 |
山頂に着いたが雨は相変わらず結構な勢いで降っている、折り畳みの笠を広げて、とりあえずカップ麺にお湯を入れ、アンテナを組み立てる、無線を聞くと池袋のサンシャインからCQを出している局がいたので交信してもらう、雨のせいでメモを取る紙も濡れてしまい状況は最悪だ、ラーメンを食べてから、周波数を回すと、千葉県の市川市からCQを出している局がいたので呼んでみると、何とか取ってもらえた。
私の登って来た反対側にも登って来るルートが有るようで一名の登山者が登って来た、カッパを着ているが、パンツまでびっしょりになってしまったと言っている、和名倉山に登ったのは5回目でいろんなルートが有ると言っていた、こんな状況でなければ話も出来たのだが、カメラのシャッターを押してもらいすぐに下山することにした。
濡れた体はしばらく休んでいたので冷えてきた、夏だから良いがこれがもっと寒い季節だと危険を感じてしまう。
少し乾いたズボンだが唐松の中を通るのでまたすっかり濡れてしまった、登って来た時最後に休んだ広場で休憩、デジカメは水気を取ってザックにしまったので、防水のスマホをカメラのケースに入れると丁度良い、途中の登山道に鮮やかなキノコが目を引く。
鮮やかな色のキノコ |
スズタケのヤブ辺りまで戻ると雨がやんで少し日差しも出てきた、帰りの登山道は滑りやすく気をつけて下るがそれでも尻餅をつきそうになる、森林軌道を戻ると一本の錆びたレールが有るのに気が付いた、かなり細いレールだ、崩落地を通過すると心配な所は無くなる、Kさんたち一行はこんな厳しいところをよく行って来たものだと感心してしまった。
森林軌道跡に有ったレール |
植林地の長い急な下りを休みながら下り、吊橋に出たときは何とか無事に行ってこられた喜びがこみ上げてきた。
帰り道、大滝の湯で汗を流す、休日のせいかかなり混んでいた。
● 記録
P 6:06 -(1:34)- 7:40 休憩 7:50 -(0:33)- 8:23 反射板跡 -(0:17)- 8:40 崩落地 -(0:29)- 9:09 造林小屋跡で休憩 9:23
-(1:27)- 10:50 広場で休憩 10:59 -(0:12)- 11:11 雨が降ってくる -(0:22)- 11:33 カッパを着る、登山者が来る 11:41
-(0:17)- 11:58 二瀬分岐 -(0:16)- 12:14 和名倉山山頂 12:47 -(0:49)- 13:36 広場で休憩 13:44 -(1:17)- 15:01 崩落地
-(0:17)- 15:18 反射板跡 -(0:14)- 15:32 休憩 15:40 -(0:27)- 16:07 休憩 16:13 -(0:23)- 16:36 P
トラックデータ、カシミール3Dで作る、復路は省略 |
● 森林軌道跡
二瀬尾根登山道にある森林軌道跡はかなり不思議な軌道跡だ、森林鉄道は山奥から木材の搬出を目的に作られたトロッコ鉄道らしい明治時代の後半から1960年代までは国産材中心の時代で日本全国で利用されていたという事だ。
NETで調べると廃線マニヤが沢山いていろんな情報が上げられている、国道140号の川又からの入川森林軌道はレールも残されていて幾つかのホームページで見ることが出来る。
ウィキペディアには「東京大学演習林軌道」というページが有って、入川森林軌道は東京大学演習林軌道の入川線だったことが解る、滝川線は今の国道140号になっているところに有ったようだ。
二瀬尾根登山道にも東京大学の標識が有るので東京大学演習林だと思われるが、ここの森林軌道跡は記載が無い、不思議なのは軌道の両側とも深い山の中で道路に繋がってないことだ、反射板跡から造林小屋跡まで約2.3Km 標高が1330mから1380m位、いたるところにワイヤロープが沢山残置されているので索道を作って資材を上げ、材木を下ろしたのだろうか、和名倉山にもワイヤロープが沢山あった、林業が栄えていた頃は、沢山の人がこんな深い山に入って過酷な労働をしていたのだろうか。
2017年 8月 foxtrot