●ぜひ登ってみたい燧ヶ岳

　山歩きをするようになって、尾瀬の「燧ヶ岳」はぜひ登ってみたい山の一つであった。　ガイドブックには、尾瀬の山小屋に一泊して登るコースが紹介されている、一泊となると準備などが必要で、なかなか行く機会が無かった。

　ところが7M1*** Hさんが日帰り山行をしている記事を寄せていたのを読んで、私も挑戦してみることにした。

　「燧ヶ岳」へ登るとなると、１０時間以上も歩く必要があるので、梅雨明けにでもと思っていたが、先日、JQ1*** 鎮爺ことOさんに安中の山を案内していただいたとき、残雪期の今の方が良いとの助言をいただき、５月２９日の土曜日、決行することにした。

　自宅を朝２時頃出発、沼田から国道１２０号で鎌田を目指す、夜中だというのに車が沢山走っていて、その全てが鎌田で左に折れて尾瀬方面に行く、幸いほとんどの車は、戸倉で鳩町峠方面に行ってしまい、大清水の駐車場はすいていた。

　２０年ぶりの尾瀬、道は当時と変わらないようだが、一ノ瀬の橋は２０年前は無かったような記憶がある。

●湿原には水芭蕉が

　三平峠頂上付近ではまだ残雪があった、木道を沼に下ると対岸に「燧ヶ岳」が大きく立ちはだかる、休む間もなく長蔵小屋方面に向かうと湿原には沢山の水芭蕉が咲いている、水芭蕉の事は全く考えていなかったので、嬉しい誤算だ、カメラを取り出して、写真を撮る。

　長造小屋から沼山峠方面に行くと、峠の方からツアー客が沢山来る、大江湿原も沢山の水芭蕉が咲いている、リュウキンカの黄色が鮮やかだ。

　大江湿原の三叉路を沼山峠の方に行きかけたが、平野家の墓があるのに気が付いて、エアリアマップで確認し事なきを得た。

　大江湿原の三叉路を左に行き、大江川を渡り階段を登ってしばらく行くと右側に長英新道の分岐があった、いよいよ「燧ヶ岳」への登りである。

●残雪の登山道

　樹林帯の中はほとんど残雪で覆われていて何処でも歩けてしまう、踏み跡と木々に付けられた赤ペンキを頼りに先を急ぐ、湖畔には沢山のハイカーがいたが、登山道に入ったとたんに誰もいなくなってしまった。

　踏み跡を見つけながらひたすら歩く、展望の無い樹林帯はたんだん傾斜がきつくなってきて、疲労も激しくなってきた、考えてみると、大清水を出てからほとんど休んでいない、休みたいところだが適当な場所がない。

　良さそうな場所が無いので、時間を見計らって、笹の上にザックをおろして休むことにした、ドラ焼きをほうばると甘さが心地よい。

　休んでいると中高年のカップルが登って行った、再び歩き始めると、このカップルも疲れていたのか、大きな木の下で休んでいた。

　やがて左側の樹林越しに「会津駒ヶ岳」と沼山峠に続く舗装道路が見えかくれしてきた、雪の融けた沢の所では雪の下から水が流れている、登山道はほとんどが沢になっているので、雪の下は空洞になっているようだ。

　踏み抜いた足跡もあるので注意して歩いていたが、それにもかかわらず、一度踏み抜いてしまい膝を岩に打ちつけそうになった、幸いズボンが汚れた程度で事なきを得たが、こんな所で動けなくなったらと思うと冷や汗ものである。

　以後沢音のするところでは、なるべく土の出ているところを歩くよう心がけた。

　眼下に尾瀬沼が見えるようになると、いよいよ傾斜もきつくなり、疲労も激しく、１０歩くらい歩いては息を整へ、また１０歩くらい歩いてひと休みという状態でペースが上がらない、そんな状態で登っていると、右手上の方に山頂が見えてきて、やがてミノブチ岳に飛び出した。

　ミノブチ岳は大きなケルンがあるだけで、山名を示す物は何もない、森林限界を超えているので、展望は素晴らしい。

●爼�ｰ

　ハイマツとシャクナゲの間の狭い道を進むと、左からナデッ窪の道が合流していた、雪渓を越え、岩場をよじ登ると「爼�ｰ」に着いた。

　山頂では風が有るのでフリース着込み、記念撮影と展望を楽しむ、登山者も沢山いる、ほとんどが御池から登っているようである。

　さっそく１２００MHzでＣＱを出してみたがさっぱり応答が無い、４３０MHzのレピーターではお馴染みの局の変調が聞こえるので、呼んでみると、他のレピーターも開いてしまい変調がつぶされてしまう、セブンエリアでワンエリアのレピーターを開く方が間違いのようだ。

　１２００MHzはダメだったが、４３０MHzでは石川県と西多摩郡の２局と交信できたので、「柴安�ｰ」に行くことにする、「爼�ｰ」から「柴安�ｰ」を見ると按部から上は雪渓が残っていて、急登に登山者が取り付いている、かなりの急登で落ちたらただで済みそうにない。

　按部に降りて、軽アイゼンを付ける、雪が柔らかいので、あまり効きそうもなくただの気休めである。

●柴安�ｰ

　雪渓を登り下を見るとかなりの急登だ、降りてくる人とすれ違うのにも一苦労である、何とか登り切って、岩場を越えると、「至仏山」のよりは小さいが、黒い石塔の様な「柴安�ｰ」を示す山頂標識があった。

　山頂には沢山の登山者がいたが、東側が広く何のためか、杭が打ってあって人もいないので、ザックをおろした。

　杭に４３０MHzの３エレ物差し八木を掛けてワッチしながら、ラーメンを作った。

　展望も素晴らしい、眼下には尾瀬ヶ原が広がり、正面に「至仏山」、その右に「笠ヶ岳」、「武尊山」など、反対側は雪がたっぷり残った「平ヶ岳」、「中の岳」、「駒ヶ岳」などなど、苦労して登っただけの甲斐がある。

　４３０MHzでＣＱを出したら、「平標山」移動局に続いてJS1*** Tさんが、「稲包山」から呼んでくれた。

　私のローカル局が「袈裟丸山」に行っているのでレピーターで呼んでみたら、つながったものの、サブチャンを指定して移ったが来てくれない、代わりに群馬町移動中のJR1*** Sさんが出てくれた。

　帰りは往路を忠実にたどった、「柴安�ｰ」の下りの雪渓では、踏跡からハイマツの所まで跡が付いていて、女の人が落ちたとの事であった。

●いろんな人がいる

　「爼�ｰ」に登り返すとき４，５名の降りてくる人がいたので端よけていたら、目の前で転がった、幸い転落はしなかったが、あんな状態で「柴安�ｰ」に登れるのかと他人事ながら心配である。

　４３０MHzを聞きながら下っていると、「ミノブチ岳」手前で、「越後駒ヶ岳」移動局がＣＱを出していた、お声がけしＱＳＬを確保する。

　話をしていると突然、「赤ナグレ岳」の中腹から直径１ｍ位ありそうな、岩が轟音と共にナデッ窪の方に落ちていった、幸い登山者はいなかったようであるが、直撃を受ければ助かりそうも無い。

　落石を見ていた登山者は、こわいので、山頂に行くのを止めるという、私と同じくらいの時間に大清水を出てきて、「燧ヶ岳」の山頂を越えて、見晴らしに下り、東電小屋に泊まる予定でいたようだが、大清水から「ミノブチ岳」まで８時間もかかっているようでは、何時になったら小屋に着くのか、無謀な人達だ。

　無謀な人達は他にもいて、長英新道を半分も下った頃７，８名の団体が登ってきた、体力のある若い人ならまだしも、５０代は過ぎていそうな団体で、かなり辛そうだ、いったい何を考えているのか。

　スキーがあれば楽に下れそうな斜面を、雪面を踏み抜かないよう注意深く下った、時間も余裕があるので、気が楽である、尾瀬沼の木道に出ると、ハイカーの姿もずいぶん少なくなっていた、長蔵小屋の前のベンチでひと休みして、「燧ヶ岳」に別れを告げ、三平峠に向けて歩き出した。

●記録

　大清水 4:40 -(1:45)- 6:25 三平下 -(0:37)- 7:02 長英新道分岐 -(0:43)- 7:45 休憩 7:53 -(1:12)- 9:05 ミノブチ岳 -(0:28)-

　9:33 爼�ｰ 10:13 -(0:26)- 10:39 柴安�ｰ 11:55 -(0:24)- 12:19 爼�ｰ -(0:26)- 12:45 ミノブチ岳 13:03 -(1:24)- 14:27

　長英新道分岐 -(0:11)- 14:38 長造小屋 14:45 -(1:45)- 16:30 大清水

1999年 5月 foxtrot